こんにちは、「相続コンサルタントしゅくわ事務所」代表の宿輪です。
弊所は、開業以来相続専門の事務所としてたくさんの相談者の方からお話を聞いてきました。相続は、すべての人が当事者となる法律行為ですが、その内容を知る人は少ないのが現実です。知らないがゆえに、相続時にトラブルとなり、最悪の場合は親族間に遺恨を残す「争族」となってしまいます。
少しの知識があれば、トラブル発生となる前に対策が可能となります。「相続ワンポイント」では、皆さんに知っていただきたい相続の知識をランダムに解説しています。100を超えるタイトルがありますので、ぜひお役に立ててください。
弊所では、民事信託(家族信託)も積極的に取り扱っています。遺言などこれまでの民法では解決できなかった問題がクリアにできます。☞に小冊子ダウンロード版を用意していますのでご利用ください。
弊所の活動内容を、スライドを使って説明してみました。☞のユーチューブ動画も見ていただけると嬉しいです。
では、ワンポイントをどうぞ!
認知症患者の財産管理
高齢者が、悪質な訪問販売等に合う被害が後を絶ちません。
認知症を発症していても、24時間つきっきりで守ることはできませんので、家族は心配です。
高齢者や認知症患者の財産を守る制度には、どのようなものがあるのでしょうか。
【財産管理委任契約】
民法上の契約です。高齢者が利用することが多いですが、特に制限はありません。
本人(委任者)の意思に基づき、受任者に契約内容に沿った財産の管理をしてもらいます。
本人が希望する人に管理してもらえ、管理の内容も自分で決定できるということになります。
親しい身内に受任者になってもらい、通帳や印鑑を預けますので、高齢者が悪徳業者の騙されて高額な商品や必要のない工事を契約することが防げます。
委任契約ですので、委任者,受任者のどちらからでも解約の意思表示ができます。しかし、本人が認知症で意思能力が無くなると、この解約の意思表示もできませんので委任契約は終了することになります。
実際には、認知症が進んだ状態でもそのまま管理を続けている場合が見受けられますが、受任者の行為に法的根拠がありません。
結論としては、認知症患者の財産を管理することはできないことになります。
【法定後見(成年後見制度)】
事理弁識能力(判断能力)が無い認知症患者すには法律行為(契約など)ができません。これをするためには、後見人に代理してもらう必要があります。
後見人制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。法定後見は、認知症患者の家族などが家庭裁判所に請求して後見人を決めてもらいます。そして、裁判所の管理下で後見人が本人(被後見人)のために財産管理をします。
裁判所への申立ての際、後見人の候補を申し出ることは可能ですが、選任するのは裁判所です。家族などを候補者とする人が多いのですが、裁判所は専門職後見人(司法書士や弁護士など)を選定することが多いようです。(平成29年 親族後見人の選定割合 26%)
法定後見は、公的制度であるため社会的信用があり、万一被後見人が法律行為をしてしまった場合には、後見人はそれを取り消す権利が認められています。
ただし、財産の管理や裁判所に対する報告など規制が多く、また、専門職後見人が付く場合は、報酬が発生し大きな負担となるなど使いにくいこともあり、普及が進んでいません。(後見人が必要な認知症患者の5%程度)
【任意後見(成年後見人)】
認知後見は、本人が判断能力があるうちに、公正証書で契約することで利用できます。法定後見と違い、本人が後見人を指名することができ、財産管理の内容も決めることができます。
認知症を発症して判断能力が無くなったら、家庭裁判所に任意後見監督人を決めてもらってからスタートします。任意後見監督人を通して裁判所に管理されますが、法定後見よりは本人の希望が反映できる財産管理となります。任意後見監督人は専門職が就きますので、報酬は必要になります。
任意後見の場合は、万一被後見人が法律行為をしてしまった場合には、後見人はそれを取り消す権利が認められていません。万一の際は、裁判で決着する必要が出てきます。
後見が開始するのは、認知症になってからですが契約は判断能力に問題ないうちにする必要があります。通常は、財産管理委任契約と合わせて契約し、先に印鑑や通帳を預けておき、契約などのトラブルに巻き込まれないように対策をします。
【民事信託(家族信託)】
本人(委託者)の財産を信託財産として受託者に託し管理してもらう制度です。法律行為ですので、本人に判断能力があるうちに契約しなければなりません。
どの財産を誰に託し、どのような管理をしてもらうのかを自由に決めることができます。受託者を管理能力のある家族にすれば、報酬は発生しません。(ただし、不動産管理など手間のかかることを任せる場合など報酬を設定することは可能です。)
後見制度は、財産を本人の財産として管理しますが、信託では財産は「信託財産」として名義を受託者(管理を託された人)に変えて管理します。本人は委託者(元の所有者)兼受益者(利益を受ける者)として、受託者を監督し財産の給付を受けることになります。
さらに、信託の財産管理には裁判所が関与しません。ですから、本人が希望する財産処分も可能です。相続税の節税対策や、リスクのある資産運用、孫の教育援助など法定後見では不可能なことが法的根拠をもって継続することができます。
※歯が痛くならないと歯医者に行かないのと同じで、認知症にならないと認知症対策を考えない人が多いです。すると、財産管理の選択肢は「法定後見」しかありません。後見を付けない場合、財産は本人が死亡するまで凍結状態となってしまいます。
判断能力に問題が無く財産管理の選択肢が複数あるうちに、どのような財産管理をしたいのか検討し、手続きを進めておきましょう。